第54回 お前の物は死者のモノ~古物の怪談諸相~

「古さ」の概念は「怪談」の構成要素として大きな比率を占めているのではないでしょうか。

髪の毛の伸びる古い人形、祟りを成す黒い聖母像、学校の旧校舎、歴史ある寺社、古老の語る古い話……。

今回はそんな古い話の中でも、「着物」に焦点を絞って集めてみました。

 

鳥山石燕の『今昔百鬼拾遺』に描かれる妖怪「小袖の手」が有名ですが、そこに至るまでの江戸怪談の系譜を追ってみますと、どうやらこの遺品の着物から手が伸びる怪のモチーフは江戸中期ごろから発生した比較的新しいもののようです。

今回確認した範囲で古いものは『続向燈吐話』(一七四〇年・序成)にあるもので、そこから『諸州奇事談』(一七五〇年刊)などに展開していきます。これらの話は着物を残す死者の哀切と、死者の気配が残る着物に期せずして触れてしまう「忌まわしさ」や不気味さが描かれています。

今回取り上げた資料の中で研究会メンバーの関心を特に引いたのは一八一一年刊の仙台藩の地誌『嚢塵埃捨録』(著者不明)でした。

宮城県名取市の「手倉田」の地名由来として、質草に取られた遺品の着物から手が伸び、強欲な質屋の顔を撫で、質屋が死亡し、やがて家は傾き倉があったところは田となったと語られています。

在地の伝承と怪談集の相互干渉的な影響関係を考える上でひとつのサンプルとなりそうです。

 

また、研究会では上記の怪談に加え、現代も残る「故人の着物」にまつわる習俗を紹介しました。

三重県松阪市の朝田寺、青森県五所川原市の川倉賽の河原地蔵尊、栃木県栃木市の岩船山高勝寺など、故人の衣服を納める風習は今も見られます。

それら実物の迫力は時に我々生者の心胆を寒からしめ、怪談好きやホラー好きがともすれば忘れてしまいがちな直感的なぞわっとくる「オソレ」を思い出させるものであり、現地に行って見る価値あるものであります。

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開催日:2020年06月13日

会場(もしくはzoomミーティングID):933 5934 8723

発表者:井上ネクティ