第53回 小泉八雲紀行文の中の怪談

新型コロナ流行の影響により今回からオンライン研究会となっております。

同様に、コロナ流行により延期になってしまいましたが、六月には小泉八雲記念館の小泉凡館長をゲストとしてお招きし、「百物語の館 小泉八雲特集」が行われるはずでした。

今発表はそれに先立ち、小泉八雲作品の捉え方を深化すべく彼の流浪の半生を追い、小泉八雲作品の捉え方を多角化すべく、「小説」ではなく「紀行文」に焦点を絞り、膨大なそれらの中からいくつかの怪談を紹介し、検討しました。

八雲は紀行文の中で、現地の人に聞いた話やなにかで調べた伝説などを積極的に取り入れています。描き方もさまざまで、あくまで情報として淡々と概要を紹介するにとどめているものや、小説的語り口で情景描写も豊かに描くものなどがあります。

特に後者の「鳥取の布団」などは有名で、佐野史郎による朗読も行われています。

また、これら紀行文内怪談の書かれ方として、その「話」を現地の人から聞き出す前後の様子が差し込まれる例があります。

前述した「鳥取の布団」は八雲達がこれから鳥取に向かう事を知った宿の女中が「鳥取には『鳥取の布団』という古い話がございますが、旦那様はご存知ですか?」と語り始めます。

さらに「鳥取の布団」が呼び水となったかのように「ひとつの伝説がまた別の伝説を呼び、今夜はいくつもの珍しい話を聞いた。ひときわ私の心に残っているのは、私の連れが急に思い出した話である。それは出雲の伝説であった。」(小泉八雲「日本海に沿って」より『新編日本の面影』角川ソフィア文庫収録)と、話が連鎖反応を起こしている様子が描かれます。

これは柳田國男が若き佐々木喜善からかの『遠野物語』の原型となる遠野の昔話を聞いた場を思い出させるような「語りの現場」のリアルさを感じさせます。

 

これら小泉八雲の紀行文内怪談は、その多くが人からの聞き書きと翻訳を介したオーラルな性質の強いもので、八雲のいわゆる「再話文学」の奥義へと繋がっていく模索の途上であり、我々朗読団体「百物語の館」としても学ぶところは多いでしょう。

 

(より詳細なレポートを雑誌『怪と幽』五号(2020年8月31日発売の「研究会レポート最前線」にて掲載しております。)

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開催日:2020年05月02日

会場(もしくはzoomミーティングID):7912-6635-798

発表者:井上ネクティ

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