第55回 江戸初期怪談リバイバル

よく知られるように、江戸文芸は先行する作品を摂取して創造の糧としている。
このことは、江戸怪談においても同様である。
問題は、どのような先行作品を糧として、創造の翼をいかに羽ばたかせたか、にあるといえよう。
今回の研究会では、いくつかの江戸初期怪談をとりあげて、それらが受容される様相を検証した。
【ろくろ首・夢で追われる女】
ろくろ首となった女が侍に切り付けられるが、逃れて夢から覚める、という話である。
すでに第23回怪談文芸研究会にて報告している(『諸国百物語』(1677年刊)巻2の3などに載る)が、今回は新たに目に付いた作品を紹介した。
まず、『続向燈吐話』(写本・1740年序)巻9の11である。この資料は、「話の点取り(複数人で話を出し合って競う)」を筆録したもの、と考えられている。江戸という大都市での筆録である。
次に、小泉八雲『骨董』(1902年刊)「蛍」では、ろくろ首ではなく蛍となった女の話であり、出雲で聞いた話という。
これらの資料からうかがえるのは、江戸初期怪談が書承のみではなくて、口碑伝承として伝わっていたということである。
説話伝播の足跡を跡づけるのは容易ではないが、興味深い事例といえよう。
【さかさまの女・札はがし】
魔除けの札を剥がすことを幽霊から頼まれる、という話であって、三遊亭円朝「怪談牡丹灯籠」にも取り入れられている。
この話は、つとに平仮名本『因果物語』(寛文年間刊)巻2の1(片仮名本・上の7の1)・『諸国百物語』(1677年刊)巻4の1などに認められる。
そして、その数十年後には、北条団水『一夜船』(1712年刊)巻2の2に受容されており、話の性格を大きく変形させる。
さらに、『向燈賭話』(写本・1739年序)巻2の4という、前の『続向燈吐話』と同様の資料に筆録されることで、オーラルな羽ばたきを見せている。

以上のような事例は、数多く認められる。今後さらに探究してゆくこととしたい。

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開催日:2020年07月18日

会場(もしくはzoomミーティングID):724 9955 2866

発表者:門脇大

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