第58回 韓国ドラマから見る九尾狐の表象

 本発表では、韓国の人気テレビドラマシリーズ『伝説の故郷』(KBS、1977年~1989年に578編、1996年~1999年に72編、2008年に8編、2009年に10編が製作)に登場する九尾狐のエピソード、「九尾狐(1977年)」、「九尾狐(1986年)」、「野狐(1996年)」、「狐女(1996年)」、「狐谷(1998年)」、「九尾狐(1998年)」、「九尾狐(2008年)」 と、その他のドラマ 『私の彼女は九尾狐(2010年)』 、『九尾狐:狐妹伝(2010)』などを対象にし、内容における説話のモチーフ、視覚表現、狐が象徴するもの、そして、日本の大衆文化からの影響などの観点から検討した。

 本発表では、九尾狐の説話を「狐妹」系と「雪女」系に分けて検討した。「狐妹」系は、ソン・ジンテが1930年『朝鮮民譚集』に記録したのが文献上の初出で、その後絵本として数多く出版され、ドラマにも多く取り上げられてきた素材である。家族の中に狐が混ざっているという話で、身近なところに潜む怪異の恐怖を表している。また、「雪女」系は、日本の説話「雪女」に似た内容・構成で良妻賢母として描かれており、演出においてはこの説話を素材として製作された1964年の映画『怪談』の影響を受けたものと考えられる部分が多く見られる。この内容構成と演出形式は70年代末に登場して以来、80年代、90年代のドラマでも見られ、韓国の九尾狐話の定番になっている。

 特に、ドラマの中で狐の表現を、姿(メイクやCG)だけではなく、しぐさ、動き、演出なども視野に入れて検討した。九尾狐の姿は、長い白髪、長い爪、牙、赤い目、毛、尻尾で表現され、動作はとんぼ返りや空中を飛ぶ移動が特徴である。このようなしぐさ、動き、演出は歌舞伎の動物表現や日本の怪猫映画を想起させる場面が多く、日本の特撮映画やドラマの影響を受けた可能性が考えられる。

 最後に、韓国の九尾狐の登場するドラマの重要な特徴として、内容において九尾狐が象徴しているものの変化についても検討した。90年代までは前近代的秩序に抑圧される女性が多く、九尾狐は烈女や良妻賢母として描かれたが、2000年代の中頃からは女性に限らず弱者や差別されるマイノリティーの象徴としても描かれるようになった。ドラマのなかで九尾狐は各時代の韓国社会を反映しており、特に2000年代半ばからの九尾狐には、現代韓国社会に多文化家庭が増えて教育の問題や差別問題など様々な問題に直面していることが反映されていると考えられる。

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開催日:2020年11月21日

会場(もしくはzoomミーティングID):zoomID:985 6380 7171  pass:097623

発表者:パク・ミギョン